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会場に着いて、さてと一息つく間もなく。それをしてこそ醍醐味じゃんと乗り気満々だったルフィに付き合う格好で、ゲームに出て来るキャラクターとやらへの仮装(コスプレ)をして、そのままそぞろ歩きをと続けた彼らが辿り着いたのが、街の広場にあった所謂“ステージ”という舞台。招待客(ゲスト)であるコスプレイヤーが、RPGの中でと同じく、遭遇した架空のモンスターを倒したり、はたまたデュエリストと呼ばれる者同士で勝負をしたりし、その結果で経験値や所持金を増やすという“イベント”を体験出来るようになっており。モンスター退治は大画面に映し出された3D映像を相手の体感ゲーム方式で片づけるのだと判ったそれから、
【どなたかデュエルに参加して下さる勇者はいませんか?】
プレイヤー同士の勝負というパターンのエキジビション、出来ればゲストさんを舞台に登らせての実演をしてみたいとするスタッフサイドであるものか、盛んに呼びかけておいでだったのへ、
「お〜い、俺、出てもいいぞ〜。」
提げてたIDカードをわざわざ頭上で振って見せる判りやすさでアピールし、堂々の立候補をしたのが誰あろう、
「ぞろ?」
単に“保護者”として同行して来ただけ。てっきり全然乗り気なんかじゃないと思っていたルフィにしてみれば。こうまで目立つ形で名乗りを上げた破邪殿の行動、眸を剥くほど驚きだったが。周囲の人々の反応はまた違い、
「え? …サマル、よねぇ?」
「あの取り合わせはそうなんだろけど…。」
「どういう冗談よ、あれ。」
「サニエル様が冗談でマルマルの衣装着てるようなもんじゃない。」
「サ…って。
あんたそれ“ビンガムシャトー”知らない人にはどういう喩えだか判らないって。」
確かに。(笑) もうちょっと判りやすく言うならば、前章ラストでMCのお姉さんがついつい口走ってしまったように、二枚目、若しくは頼もしいキャラが、何かしらの企みの下、芝居がかっての三枚目キャラを演じているかのような取り合わせになってるらしいチョイスをしてしまったいで立ちのお兄さんだというだけで、もう既に結構な注目の的となっているその上、わざわざステージへ上がろうだなんて。
「…ゾロ。」
「ま、お前は此処で待ってな。」
こちらは、主人公の勇者キャラ、お元気なわんぱく坊や・ピングの恰好をしたルフィが、訳が判らず引き留めかかるのを。よしよしと宥めるような…にしては なかなかに苦み走ってニヒルな笑いようにて受け流し、行く手へ自然と開けていただいた道をすたすた歩いてステージへと向かう。着いてゆこうとしかかるルフィの肩へは、サンジがちょい待ちと手を置いて、
「まぁま、此処で待ってなって言われたんだろが。」
「けど。」
そうこうする内にも、やたら上背のある筋肉質の“三枚目キャラ”さんがステージへと上がってゆき、
【ようこそ、サマル。デュエルの舞台へ。】
判りやすい戦士ではないものの、勇者の兄としての特権、彼もまたオールラウンドタイプなのだそうで。
「オールラウンドタイプ?」
スタッフである筈のサンジが、パンフレットの中のキャラ紹介のページへ目許を眇めたのへ、
「うん。」
こうなっては制しようがないと諦めたか、小さな肩を落としがてら、ルフィが説明役を買って出てくれて。
「例えば戦士と武闘家じゃあ特性が微妙に違うから、能力とか装備出来る武器とかも違ってくるんだけどもな。」
商人とか僧侶、召喚師、このゲームのスキルは…幾つだったかな? あれれぇと小首を傾げたルフィだったのは、実をいや彼もあんまりゲームで遊ぶ方ではないからで、
「けどな、勇者だけは格闘系も魔法系も関係なく何でも装備出来るし、どんなイベントへも参加出来る。」
サマルもそれに準じるため、対決モードのデュエリストとして問題があるキャラクターではなかったらしく。進行係だったウサ耳のお姉さんがゾロのIDカードを手持ちマイクのようなスキャナーで一撫でし、
【はい、登録完了です。ご見物の皆様もよろしいですか?
明日からの本番でも、各所ステージ、若しくはダンジョンにて、
アカウントバトルやデュエルをなさる場合、
自分の属性をちゃんと把握した上で、名乗りあげをして下さいませね?】
でないと、相性が悪いモンスターだったなんて知らなかった〜なんて、後から申告されても受け付けられませんので悪しからず。ちょっぴりお茶目な言い回しで注意事項を口にしたウサ耳のお姉さんは、
【今回のバトルはエキジビションですので、
名乗りあげして下さったサマルさんに、対戦相手を選んでいただきましょう。】
ステージ上に既に居並んでいた顔触れは、やっぱりゲームキャラのコスプレ、いかにもな衣装を身につけてはいたが、恐らくはスタッフ側の人々でもあるらしく。場慣れした着こなしをしつつも、あんまり気負わないままの態度は余裕に満ちており。お客様である飛び入りサマル氏を、微笑ましいと言わんばかりの眼差しで見やるお人が結構多い。
“アクション系の劇団員か、スタントクラブから出向して来たバイトさんたちか。”
そいや、さっき更衣室にいたのもああいう感じのメンツが多かったよなと。時々自分がスタッフなのを忘れかかるらしいサンジさんが、思い起こしているその傍らでは、
「〜〜〜。」
制することは適わなかったものの、手放しで安心してはいないんだからと、ルフィが不安げに舞台を見上げており。
“なあゾロ。目立つことすんの、嫌いじゃなかったか?”
本当は何へでも、あんまり関心ないってか 興味薄くって。でも、ここんとこはサンジも感心するほど気配りの人になってるって言ってた。
『そもそもからあった能力なのかも知れないが、
そんでも、ずっとずっと使ってないまんまでいたんなら、
がっちごちに錆びついてていい筈だろうによ。』
俺と並ぶくらいの感知能力発揮しやがんの。まあ、か弱いレイディにっていう探知で負けたんなら癪だが、お前さん限定っていう随分と偏った探知だから、それも有りかなってことで、寛大にも見て見ぬ振りを通してやってるが…なんて、サンジはそんな風に言っていて。だったらあのさ…。
“なあ、さっきチリッと感じたくらいなら、
他んトコでだって感じるほどなんだってばサ。”
表へ出て来てすぐ、何か感じたか様子が一瞬おかしかったルフィだったのを、気に留めたままでいたゾロなのだろか。シャツに掴まるみたいにしがみついたりしたから余計に、何にか怯えてるとか思っちゃったのかなぁ? ゾロがこんな“らしくない”ことをするのへの理由といえば、ルフィが何か感じたからっての以外には思いつけないから。だったら、あのね? あれが原因なんかなぁって、自分のせいなんかなぁって。
“人が集まるところには、何かの気配もいっぱいついて来ての集まるもんだし、それの全部が全部、性分の悪いのだっては限らないのにさ。”
人好きなのとか、自分が憑いてる子が心配でしょうがないから見守ってるとか。そういうのまで退魔封印しちまうのか? そりゃあまあ、居場所を間違ってはいるんだろけど。
“でもでも こないだサンジに訊いたら、そういうのは俺らの担当じゃないって言ってたし。”
ドデカイ輩をたためる俺らなんだから、小者相手なら尚のこと、お片付け出来る能力もあるにはあるけれど。小さいのまで片っ端からいちいち浚ってたらキリがないのと、だったらって彼らだから使える大きな技で一気に粛正しちまっちゃあマズイ例だってあろうからって。それってやっぱ、ケース・バイ・ケースだって意味なんだろ? 守護役のそういうのは放って置くこともあるんだろ?
「…。」
あんな目立つことするのって、もしかして…しょんもりしちゃった俺んこと、盛り上げさせたくてなのかなぁ?
「怖がってた訳じゃないのに。」
「はい?」
聞きとがめたサンジからの声にも応じずに、ウサ耳のお姉さんから武器のチョイスやレベル設定なんかを訊かれている誰かさんをばかり見つめる坊やであり。
【では、大剣モードの中級ですね。
お相手は…そうですね、荒海の海賊クロッセウスにご登場いただきましょう♪】
舞台の奥向き、セットの一部であるかのように“生きたマネキン化”して居並んでいた顔触れの中。随分と大柄で筋骨隆々、いかにも猛者ですと言わんばかりなレスラーばりの大男が、うんうんと鷹揚に頷きながら進み出る。露出が多めのボンテージ調の衣装は、南海の海賊という意味なのか。それにしては…両方の肩口に毛並みも豊かな熊の手がバックル代わりに付いているのがご愛嬌だったりし、
「我は大海の勇者、海賊クロッセウスっ!」
ルールに従っての名乗りあげをなさったので、そういえば…と自分のお顔を自分で指さしたゾロだったが、
【あ、えっと。サマルさんの方は、今回は名乗りはいいです。】
出てもいいぞと手を挙げたことで、それに相当と見なされたらしい。それと…サマルさんの肩書というのは“勇者ピングの兄貴分”でしかないそうなので、名乗りあげたって盛り上がりはしなかろうと判断されもしたようで。
【剣に付いておりますセンサーが太刀筋を読み、
相手の体を横切る度合いでどれだけダメージを与えたかを換算します。】
なので、直接叩きつける必要はありません。つか、出来れば相手へは極力触れないように願いますと、何だか妙な注意が出され、
【盾の代わりとして剣をかざして太刀筋を遮れば、
相手の攻撃はカウントされません。
それと、
双方とも剣士ではありませんが、拳での殴り合いは厳禁です、ご注意を。】
さすがは“安全なゲームイベント”であることが優先された催しで、まま、コスプレが先にありきの代物というのは、参加者にも浸透していようから、そんな方針であるということも受け入れやすかろうけれど。
“剣とやらも、こんな柔らかいんじゃあな。”
スポーツチャンバラ用の素材か低反発ウレタンの少し堅いのが使われており、デザインでかなり誤魔化されてはいるが…握力だけで指の跡がついて窪むほど やわな刀身だったりし。斬られたことを感知するためのセンサーベルトを、胸元を斜めに這わすように装着されつつ、
“だがまあ…見世物の笑い者になる気はねぇってな。”
こちらはこちらで、やはり…ルフィがらみでの行動だったこと、こそり暴露して下さったお兄さんだ。せいぜい明るく振る舞ってはいるが、何とはなく…ルフィの様子がおかしいと気がついた。本人に訊いたところで、こんなんいつものレベルじゃんかとか言い返しそうだが、
“怯えてるレベルを、この俺が読み違えっかよな。”
他のお姉さんたちから注目されてるゾロみたいだから、何だか不安で? そんな小さなことが原因で、その手を延ばしてまでしてしがみつくなんて、今までにはなかったこと。それに…。
“…。”
別な何かも気になる破邪様。本来のお役目、ルフィの護りから離れてまでとは、何だか本末転倒ではないかと のちに揶揄されもするのだが、気になったレベルというか肌合いがそうさせたのだから仕方がない。
“まあ、サンジの野郎がついてっから、向こうは安心してていいとして。”
お互いに剣を抜き放つと、舞台の中央にて向かい合った二人の戦士。夏場のサバゲーでしょうかというような、どこがコスプレと訊きたくなりそな軽装のゾロと。ギリシャ神話か北欧神話に出て来そうな、革の装束に胸板、腿、肩、ぐるぐるりと絞め上げられてる海の勇者と。肩幅分ほど歩幅を取っての身構えて、ぴたり止まったところで、
【デュエル、スタートっ!】
進行役だったお姉さんがそそくさと端へ退き、どこからか聞こえるは風の音。妙なBGMを流しても、それへと併せてお芝居みたいに展開する立ち合いじゃあなしということで、出来るだけ無難なようにと選ばれた効果音らしく、
「…っ。」
最初の風籟が舞台の上を右から左、ステレオ効果で通り過ぎてったその間合い。5秒もあったかどうかという短さだったのに、
―― その風籟にかぶさるように、ひゅんっと唸った何かの走行音がして
え…?と。その場にいた大半の皆様が、何か聞こえたけれど何が通ったの?というお顔になり。それからそれから、遅ればせながら…鳴り響いたのが、
《 ピィーーッ、ピイ、ピイッ、ピピピピ…っ!!》
何ともけたたましいブザーの音だ。早くから此処に居合わせたクチの方々が、特に意外そうに“ええっ?”というお顔になったのは、その音の意味が判っていたからで。
【 …これは、勝負あったというアラームですが?】
でもでも、たった今“スタート”と宣言したばかり。しかも、双方ともに一歩も動いてはいないではないかと。どういうアラームかを説明したものの、状況にはそぐわない反応だとでも言いたいか。ウサ耳のお姉さん、引っ込んだそのまま元の位置に戻って来れば、
「…え?」
やはり襷がけされていた…そちらさんのは革の装備っぽいベルト状のそれだったのだが、打撃センサーが、飛行機用の晩の滑走路のようにLEDライトの行列がパパパッと居並んで点灯している賑やかさ。
「これは…致命傷レベルの打撃を受けた赤ランプばかりですよね。」
マイクを構えることさえ忘れて、MCのお姉さんが同僚のバイキングさんへと話しかけたのは、もしかして誤作動かしらと思ったかららしかったのだが、
「ああ、そうらしいな。結構な痛いのが襲い掛かって来たから。」
「え〜っ!」
いや参ったと笑ったお兄さん、そのベルトを、骨張った指を差し入れて浮かして見せれば。真下の肌に同じ直線の赤い跡がちらり。確かに触れてもないのに、しかもしかもあんなに柔らかい素材の“剣”だってのに。ぶんと一閃しただけで、
「…須藤先輩が避けられなかったんですか?」
実は同じ劇団所属だから、時代劇の殺陣へも駆り出されている彼がどれほどの腕前かは重々承知だったお姉さんにしてみれば。そんな彼が…剣をかざすだけでもいいこと、咄嗟に出来なかったほど、それは凄まじい攻勢だったと裏書つきで知らされたようなもの。
【…あ、えと。リプレイをご覧にいれましょうね♪】
はっとしたのは客席がざわめき出した気配につつかれたから。間近にいた自分にも何が起きたか判らなかったのだからして、間合いの遠いギャラリーにな尚のこと、何も始まってないのに何してんだと、不手際へのブーイングも起こりかねなくて。
【スーパースローで、リプレイいたしま〜すvv】
ヤダな、やらせとか言われたらどうしよう。先に映像撮ってたなとか。だって あたしだって信じられないのにと、内心でぶつぶつ言いつつも、先程何とかキメラが映し出されていた巨大な画面が、再び…ただの背景からモニター画面として機能し始める。お互いに向かい合った二人の戦士の姿が映し出され、スタートの合図として片腕を高々挙げて見せつつ、そんな彼らから離れかかったウサ耳のお姉さんの動きがふっと遅くなったのは、そこから“スロー再生”となったからだろう。ほぼ等身大という映像なので、すぐ傍らに当事者たちが立っているのが何だか妙な構図だが、ゆっくりすぎで何の動きもないままの数秒が過ぎ、やはり単なる誤作動じゃないのかとのざわめきが立ちかけたそんな時だ。
―― 画面の中、サマルの恰好をした側の剣がふっと姿を消して
彼の手も、妙に掠れて見えにくく。二人の狭間にいた進行役のお姉さんの姿が…スクラッチカードの銀コートのようにザクザクと掠れた画面になったのは、何かがとんでもない素早さで宙を翔ったからじゃあないかしら?
「…凄げぇ。」
「ああ。あれって剣の影のせいだよな。」
何も起こってないのじゃあなく、見えないほどの素早さで何かが起こったせいだと、ようよう判った皆さんだったが、
「…っ。」
ハッとしたルフィの肩をサンジが強めに引き留めて、
「お前さんは置いていきてぇんだがな。…そうもいかねぇか?」
「いかねぇ。」
さすがは慣れて来ただけあってか、即答だったのへ苦笑を返すと。空いてたもう一方の手、自分の顔の前へとかざして見せる聖封さんで。人差し指と中指を、ピンと立てての揃えて構え。それを小太刀のように素早く振って印を切り、
《 選ばれし民草以外は、眠りのとばりに包まれよ。》
ぼそり、味のあるお声で呟くと。周囲の空気がかすかに重くなり、それに触れた端からという順番で、広場に集まっていた人々がパタパタと、糸の切れた操り人形のように、自分の足元へと力なくうずくまってしまったのだ。
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*やっとこそれらしい動きになりましたよ?(ぜいはあ)
今年こそは頑張りますね?(どんな挨拶だか…。) |